韓国映画『貴公子』感想レビュー 貧しさと父子の宿命を描くノワールアクション

2023年に韓国で公開され、2024年には日本でも上映された映画『貴公子(原題:귀공자/英題:The Childe)』。
監督は『新しき世界』や『THE WITCH/魔女』シリーズで知られるパク・フンジョン。
緊迫感あふれるアクションと、親子の因縁を絡めたストーリーで引き込みます。

本記事では、あらすじの紹介だけでなく、主人公マルコが背負う「コピノ」という社会問題や、父子の絆を象徴する印象的なシーンの考察も交えて、作品の魅力を深掘りします。

あらすじ

フィリピンで地下格闘をしながら病気の母を支える青年マルコ(カン・テジュ)。
一度も会ったことのない韓国人の父の存在を聞きつけ、病気の母の治療費を得るため父を探す決意をします。
韓国人とフィリピン人の間に産まれた孤児を看る孤児院は、閉院目前。
そんな時に園長から父親が見つかり、なんと父親もマルコを探していたと聞きます。

代理人がマルコを迎えに来て、その日のうちに韓国に発つと。
ところが韓国へ渡る途中で「貴公子」と呼ばれる謎の男と出会い、執拗に追われることに。
さらに財閥家の相続問題が絡み合い、マルコは逃げ場を失いながら真実に迫っていきます。

主演は新人俳優カン・テジュ。
謎めいた「貴公子」を演じるのは大人気俳優キム・ソンホ。
物語を動かす重要人物として、コ・アラ、キム・ガンウも出演しています。

マルコの出自と「コピノ」という現実

本作を語るうえで外せないのが、主人公マルコの出生背景です。
彼はフィリピン人の母と韓国人の父の間に生まれた「コピノ(Kopino)」です。

コピノとは「Korean+Filipino」の造語で、韓国人男性とフィリピン人女性の間に生まれた子どもを指します。
多くは父親から認知や養育を受けられず、経済的に厳しい環境で育ちます。
マルコが地下格闘に身を投じるのも、母の治療費を得るため。
映画はアクションのエンタメ性を持ちながらも、この社会問題を観客に突きつけています。

私はこの映画で初めて「コピノ」という言葉を知りました。
映画の中では、彼らのことを「雑種」と呼んでるシーンもあります。
なんとも差別的で自分たちが純血で尊いと言わんばかりの、自分勝手な財閥の醜い感じがありありとしてました。

またなぜタイトルが「貴公子」なのか。

「貴公子」という美しい響きの裏に、貧しさに翻弄される若者の現実を映し出す構造は、作品に強いリアリティを与えています。

執拗に追う「貴公子」とは何者か?

キム・ソンホ演じる「貴公子」は、笑顔を絶やさず、時にユーモラスでありながら恐怖を漂わせる不気味な存在です。
彼がなぜマルコを追うのか、その動機は後半で明かされますが、観客にとっては最後まで「味方なのか敵なのか」分からないスリルを感じさせます。

貴公子の存在は、単なる殺し屋や敵役を超えた「運命の導き手」として描かれており、マルコを試練へと追い込みながらも、結果的に真実へと近づけていく存在とも言えるでしょう。

映画の宣伝でもありましたが、後半20分は息をのむアクションと意外な展開で目が離せません。

手術室のシーンに込められた父の思い

物語のクライマックスに近い場面で、病院の手術室に横たわる父とマルコの対面シーンがあります。
ネタバレになってしまうので、あまり多くは書けませんが、
言葉を発することのできない父は、ただマルコの手を握りしめます。

このシーンは非常に象徴的です。
果たしてどっちなのか。
金銭や遺産ではなく、最後に残されたのは「父としての想い」なのか。
言葉で語られない分、その握った手の強さに父の後悔や愛情を読み取ることになるのか。
または、「頼む、おれにくれ!」なのか。

マルコはずっと「捨てられた息子」だと感じて生きてきました。
しかし、手を握る行為は「本当は守りたかった」「遅すぎたが愛していた」という無言の告白だったのでしょうか。

出来れば前者であって欲しいと思いつつ、「どちらともとれる?」
マルコはどう感じたのか。

気になる方は是非本編で確認してください。

貧しさと宿命に翻弄される若者の姿

『貴公子』は派手な銃撃戦やカーチェイスで観客を楽しませる一方、マルコという若者が背負う“宿命”を強烈に描き出しています。
生まれた環境や貧しさは本人の努力では変えられない現実。
しかしその中で彼が生き延びるしぶとさにある意味感謝です。
こんな苦労したのに、生きなきゃ嘘だ!と思いました。

映画を見終えた後、ただのアクション映画ではなく「社会派ドラマ」としての側面が強く印象に残るのは、マルコの存在がリアルな社会問題とつながっているからでしょう。

まとめ

韓国映画『貴公子』は、

  • 迫力あるノワールアクション
  • コピノという社会問題への切り込み
  • 父子、家族の関係

この三つが絶妙に絡み合い、エンターテインメントでありながら深い余韻を残す作品になっています。

貧しさに翻弄されながらも、自らのルーツと向き合うマルコの姿は、国境を越えて多くの人の心を打つはずです。
韓国映画が得意とする「スリルと人間ドラマの融合」が存分に味わえる一作として、ぜひチェックしてみてください。

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